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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)1163号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大塚春富上告趣意第一点について。

被告人が原判示のごとく第一審の相被告人巻野房雄、同山根実と強盗を共謀の上、各自顔に鍋墨を塗りつけ、山根は空氣銃を、被告人並びに巻野はそれぞれ鳶口の柄で作った長さ三、四尺位の棍棒を携え被害者方に到り、各自兇品を突付けて「騒ぐとぶっ放すぞ、声を立てると命がないぞ」等と言って脅迫し、被害者両名を屋外に連れ出し荒縄で後手に縛り上げ猿轡をはめ、更に倉庫内の柱に縛りつけ衣類雜品計四六九点を強取した事実は、その挙示の証拠によって肯認し得るところである。されば強盗の意思はなかったのであるとの所論は、事実誤認の主張であって採ることはできない。そして、被告人は原審公判廷で「巻野が一か八か行こうといゝ出したので、私はとめましたが、きいて呉れず行かなければ殺すぞと脅かしますので仕方なくついて行ったのである。」との供述をしたことは、その公判調書によって明らかではあるが、前記判示事実に照し右供述を以て被告人の判示行為が所論のように自己の生命、身体に対する現在の危難を避くるため已むことを得ざるに出でた行為であるとの緊急避難行為の主張をしたものとは解し得られない。從って原審がこれに対し判断を示さなかったからといって違法であるということはできない。また、仮りに被告人が巻野房雄から右被告人の供述するがごとき脅迫を受けたとしてもそれが被告人の生命、身体に対する現在の危難であるともいえないし、また鍋墨を顔に塗りつけ、棍棒を携えその他原判示のごとき被告人の強盗行為が巻野の脅迫行為を避くるため止むことを得ない行為又はその程度を超えた行為ともいうことができない。されば原審がそれらの点につき審理をせず又は刑法三七條一項本文若しくは但書を適用しなかったからといって毫も違法であるといえない。それ故所論は採ることができない。(その他の判決理由は省略する。)

よって旧刑訴四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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